絶えることなく湧き出る98度の高熱泉
温泉が生活の一部として身近にある湯の町
もうもうとした湯けむりの路地裏を歩く
今から約1200年前、慈覚大師が開湯したと伝わる、山陰の名湯「湯村温泉」。温泉街のシンボルである源泉「荒湯」からは、98度の高熱泉が毎分470リットルも絶え間なく湧き出ている。
「湯治場として古くから栄えてきた温泉地をハレ(非日常)の温泉とすれば、湯村温泉はケ(日常)の温泉だと思います。常に生活の中に温泉があることが湯村の大きな特徴です」とは、案内役をお願いした湯村温泉観光協会の朝野泰昌会長。
湯村の泉源は63カ所もあり、その中には個人の家から湧き出るものも含まれている。それらを合わせると、1分間に約2100リットルもの温泉が湧出しており、各家庭に配湯はもちろん、役場や学校などの公共施設でも温泉を使用しているというから驚きだ。
お湯が豊富だから荒湯は365日、24時間、誰でも利用でき、源泉が地元の人だけではなく、一般の観光客にも広く開放されていることは全国的にも珍しい。
民家の玄関口には、水道水と温泉水の蛇口が2つ。冬場は融雪に温泉を利用しているそうだ。湯村では水道料金よりも温泉料金の方が安く、朝野会長曰く、温泉を湯水のように使っている町と話す。
さらに湯村は「湯がきの文化」といわれ、荒湯では野菜や山菜などを湯がき、家庭に配湯される前までは春来川沿いに洗濯場もあった。温泉が生活の一部となっており、荒湯は地区の共有財産として、湯財産区が長年に渡り大切に管理している。
「湯村は荒湯を中心にして半径400メートルの範囲に町が形成されています。ディズニーランドとほぼ同じ面積で、人が散策するのにちょうどよい距離とされています。私は門前町ならぬ、温前町と呼んでいます。観光協会では町歩きを楽しんでもらうために、様々な企画を行なっています」と、朝野会長。
温泉街に隠れているハートを見つけてカメラで撮影すると記念品がもらえる「湯村温泉 幸せの隠れハートを探せ」や、SNS映えを狙った「3Dトリックアート」など、楽しい仕掛けがいっぱい。夏には「+」マークの両側にカップルが立つと、合計がハートのマークになるオブジェもお目見えした。
緩やかな斜面にはぎっしりと民家や旅館が建ち並び、どの路地も狭く入り組んでいる湯村のまち並み。寒い冬の朝には路地の至るところから湯けむりが立ち上り、風情ある温泉街の情緒をより豊かにしてくれる。
泉街の中心に位置する源泉「荒湯」。湯つぼからは98度の高熱泉が絶えず湧き出ている。山菜や野菜を浸けると、えぐみが取れてシャキッと茹で上がる。冬場は昔から湯たんぽに利用する住民が多い。
春来川沿いに佇む温泉街のシンボル、源泉「荒湯」と足湯。河原は昔、洗濯場として、女性たちの井戸端会議の場であった。重曹泉であるため、洗濯物も白くふわっと仕上がり、油汚れもよく落ちるのだそう。
湯村では体験型観光を目指したまちづくりが行われており、温泉街散策を盛り上げる趣向を凝らしたフォトスポットが点在している。
観光協会加盟の宿泊施設・飲食店のハートを撮ってスタート!温泉街に隠れているハートを5つ見つけてカメラで撮影し、観光協会に行くと記念品がもらえます。新しいハートを見つけると、命名もできる。取材日に編集部員が新ハートを発見&命名。T2の名が付いたハートもあるよ!!
♡詳しくは湯村温泉観光協会まで
町中には温泉専用の配管が通っており、各家庭に配湯されている。道路には配管修理の際に温泉の流れを止める仕切弁が至る所に設置されている。蛇口をひねれば、温泉が出てくる。
地元の菓子工場が観光客の癒しのスポットとして、工場を定年退職した「おばあ」を看板娘にオープンした特産品販売店。手書きの色紙メッセージが笑いを誘う。
ドラマ『夢千代日記』で有名となった湯村温泉。主人公の夢千代が胎内被爆者だったことから、広島市旧庁舎の被爆当時の敷石を譲り受け、台座に利用されている。