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ネッテイ相撲の里を歩く<養父市奥米地>(Vol.120/2023年3月発行)

参勤交代の大名行列が通った歴史街道。
「ヨイ、ヨイ、ヨイ」ネッテイ相撲のかけ声
響くホタル王国を歩く。

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ネッテイ相撲の里を歩く<養父市奥米地>

 円山川沿いの右岸道路を車で走っていると出迎えてくれる巨大な鯉のオブジェ。オブジェを過ぎたところにある米地橋の交差点を北東へ進むと、養父市奥米地(おくめいじ)地区へとたどり着く。
 奥米地はゲンジボタルの里として知られており、6月にはほたる祭りが開催され、毎年多くの人が訪れている。
 「ここはかつて出石藩の参勤交代の大名行列が通った歴史街道なんです」とは奥米地ほたるの里づくり協議会会長の村崎定男さん。
 山陰街道の宿場町として栄えた同市の養父市場には、参勤交代の際に宿泊する「旧本陣屋敷」があり、奥米地の街道はそこから出石への帰り道として使われていた。伊能忠敬や桂小五郎もこの街道を通ったとの記録が残っている。
 のんびりとした山里の風情が残る集落を歩くと、壁に柱が塗り込められた大壁や、抜気と呼ばれる越屋根など、養蚕農家の特徴が残る家屋を見ることができる。かつては養蚕と稲作、但馬牛の飼育が生業の中心だった。農業機械がなかった時代、但馬牛は田畑を耕す役牛として飼われていた。子牛は売ると大きな収入になったため、牛市へと出していた。
 奥米地は出石との関わりが強く、出石の農家への牛の貸し出しが盛んに行われていたという。出石は広々とした耕地はあったものの、山に遠く、牛の飼育に必要な牧草地に恵まれていなかった。それゆえ、牛を飼う農家はほとんどなく、奥米地の牛を借りて田植えを行なっていた。貸し出し期間は11月頃から5月頃まで。5月は養蚕業が繁忙期を迎え、牛を使うことがなく、田植えが始まる頃にちょうど牛が返ってくる。田植えの時期のズレがこの牛の貸し出しを可能にしており、牛のやりとりは昭和40年くらいまで続いていたそうだ。
 歩きながら高中川にふと目をやると、穏やかな流れの中に黒い小石のようなものがたくさん散らばっているのを見つけた。
 「あの黒い点々が全部カワニナです。生野菜を川へ入れてやると食べにやって来るんですよ」とは案内役の足立泰輔さん。カワニナはゲンジボタルの幼虫のエサになる巻貝で、水のキレイな川にしか生息しない。
 「川に住んでる幼虫たちは4⽉後半の夜になると一斉に陸に上がってくるんです」。陸に上がる際に幼虫も成虫のように光るため、一斉に上陸する景色は幻想的なのだという。
 大雨や台風などで幼虫やカワニナが流されてしまい、ホタルの数が減少することがあるため、近年ではホタルの養殖にも力を入れているそうだ。
 「出現数は気候に影響するため、いつ来てもホタルがいるという訳ではないんです。ホタルの里としてアピールしている以上、その期待には応えたいとの想いで取り組んでいます」と村崎さんは言う。
 また、水谷神社に伝わる「養父のネッテイ相撲」は300年以上の歴史がある相撲神事で、四股を踏むことで悪霊を鎮め、五穀豊穣を願う。
 「足踏みを何度も繰り返す仕草から、現代の相撲の原型と言われ、東京の国技館で披露したこともあります。高砂部屋の力士が神社を訪れ、相撲の所作を奉納してくださったこともありました」と足立さん。
 平安時代に朝廷儀式として行われていた節会相撲の名残だと伝わっており、奥米地の人々に大切に守られている。
 春は桜、夏はホタル、秋は紅葉、冬は雪景色が楽しめる奥米地。取材中に「ここには芝桜を植えた」「この辺りの木を切って整備したい」「あそこには桜の木を150本植えた」と話す案内役の姿から、未来を見据えた村づくりへの熱い想いが伝わってきた。
 桜やホタルが楽しめるこれからの季節。居心地のよい里山へ、足を運んでみてはいかがだろうか。

養父のネッテイ相撲

毎年10月の体育の日に水谷神社で行われている養父のネッテイ相撲。青色の裃姿の舞い手男性二人が、上半身裸になり「ヨイ、ヨイ、ヨイ」の掛け声で四股を踏む姿が特徴。土俵もなく行司もいない相撲で、勝ち負けの勝負もない。国選択無形民俗文化財、県指定文化財に指定。

自然豊かな奥米地

宝積寺(ほうしゃくじ)から眺める奥米地の景色。元は口米地地区にあったが延宝7年(1679)にこの地に移ったとされている。
写真奥の山には水谷滝があり、その辺りに水谷神社があったが、大雨で田んぼの真ん中まで流され、現在は「水谷神社跡」として小さな祠が作られている。そこから宝永7年(1710)に今の水谷神社の場所へと遷座された。

ほたるの館

レトロな佇まいが目を引くほたるの館。大正末期に建築された旧養父町役場を移築した。館内にはオーガニックカフェがある。

ふれあい小径

6月になるとホタルが飛び交うメインストリート「ふれあい小径」。川のせせらぎが心地いい。

戦国の世 長氏屋敷跡と書かれた碑。

養蚕農家の特徴が残る家屋

越屋根や掃き出し窓と呼ばれる縦長の窓が残っている。柱が塗り込められた大壁は外気の影響を受けにくい。

水谷神社の階段中腹にある石柱

年号が刻まれており「水谷神社の中で最古のものだと思う」と村崎さん。

カワニナ

石の上に見えるポツポツとした黒い点はホタルのエサとなるカワニナ。よーく川の中を見るとたくさんいるのがよくわかる。

ほたるの水辺公園

ホタルの養殖を行っているビオトープ「ほたるの水辺公園」。今後、池に水の流れを作り、自然の川に近い環境に整えていく予定とのこと。

ホタルの里

奥米地ではゲンジボタル、ヘイケボタル、ヒメボタルの3種類のホタルを見ることができる。