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金山町を歩く<養父市中瀬>(Vol.92/2014年10月発行)

約450年の歴史を誇る金山町の面影が残る
豊臣秀吉、徳川家康の御金蔵だった中瀬金山
「鉱石の道」もうひとつの鉱山を訪ねる…

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金山町を歩く<養父市中瀬>

  天正元年(1573)、鳥取県から訪れた旅人が八木川河畔で砂金を見つけたことから、金山の歴史が始まったという養父市中瀬。その後、豊臣秀吉が支配し、徳川時代を経て、昭和までの約400年間、日本有数の金山として栄えた。
 江戸時代は生野奉行所の直轄鉱山となり、「中瀬金山町」と称された町には幕府の役人が駐在した「陣屋」が築かれ、近畿で最大の金山町として開発された。町境の3カ所に関所(門口)が置かれ、商人が通る際には通行手形や運上金(税金)が必要だったという。
 「鉱山都市でありながら、総構えと呼ばれる城郭都市の姿を持った町なんですよ」とは、案内をお願いした中瀬金山会の有本正彦さん。
 竹田城や八木城の城下町と似たような構えであり、町割は当時から変わっていない。八木川を堀と見立てて、高台の陣屋を守るように寺院が配置されている。敵が攻め込みにくいクランクや「折れ」と呼ばれる斜めに曲がった見通しの悪い道路など、防御能力を備えた町が人工的に整備されていった。
 寛永年間には空き地がないほど家が建ち並び、米蔵が5カ所もあった。旧養父郡・朝来郡の各村から運んでも米が足りず、鳥取から買い入れをするほどだったという。
 江戸中期以降は湧水の処理に苦慮し、長らく休眠状態が続いた。明治維新後に官営鉱山となると、その後変遷を経て、中瀬鉱山は民間に払い下げられ、昭和10年(1935)からは日本精鉱株式会社が経営を開始。日本一美麗な自然金が大量に出る鉱山として再び脚光を浴びると同時に、アンチモンの産出でも国内有数の規模を誇った。昭和26年の最盛期には、月51キロ(現在の価格で約2億円)もの金を産出したそうだ。
 「戦後は社宅と合わせて1千人ほどの住民がいて、商店が軒を連ね、何でも手に入った」と話すのは、金山会の太田垣忠雄会長。「大屋口には社宅や銭湯があり、パチンコなどの娯楽施設もありました。週末には映画の上映があり、賑やかなものでした」と教えてくれた。
 昭和44年に採掘を終えたが、国内屈指のアンチモン製錬の技術は残り、現在は輸入した材料から、国内生産の80%を占めるアンチモン製品(触媒や減摩材、ガラス清澄剤など)を製造し、今も現役の製錬工場として日本の産業を支えている。
 金鉱脈が発見されてから約450年もの歴史を持つ中瀬金山町。地元ではこの産業遺産を活かそうと「中瀬金山会」を結成し、生野、神子畑、明延の3鉱山をPRする「鉱石の道」と連携して町おこしに努めている。9月からは「鉱石の道フェア」が催され、中瀬でも10月26日(日)に「金山フェア」を開催する。近畿では珍しい江戸時代の風情が残る金山町を、秋風に吹かれ散策してみてはいかがだろうか。

「総構え」と呼ばれる町並み

南北に厚みを持った「総構え」と呼ばれる町並み。

山臼

町のあちらこちらには江戸時代に金鉱石を砕く時に使った「山臼」があり、金山町特有の遺産である。

日本精鉱

昭和10年に日本精鉱の経営となり、自然金やアンチモンを産出する近代的鉱山として栄えた。

大日寺

大日寺は中瀬でも古い寺院で、平安後期に造られたとされる大日如来座像を本尊として祀る。牛の守り本尊として有名で、3月の最終日曜日に行う「大日祭り」は、明治の頃は但馬の三大祭りとして繁栄した。牛堂には牛の石像があり、畜産農家の信仰が篤い。

陣屋跡

集落の北側にある台地は陣屋跡で、今は畑となっている。陣屋の規模は桁行約20メートル、梁間約8メートル。石垣が残り、中央には埋め直したと思われる石垣があり、ここが陣屋の入り口だったと考えられている。元和3年(1617)には佐渡金山の鉱山師・味方但馬が金山開発の指導に訪れている。

宝泉寺

鉱山町特有の寺院が多いのも、町の特徴といえる。かつては7カ寺もあり、今も残る「金光寺」「金昌寺」「宝泉寺」は、金山町にふさわしい名が付けられているから面白い。日蓮宗の「宝泉寺」には妙見堂があり、北極星を仰ぐ妙見信仰は、航海の目印となることから海上安全の神でもある。それ故に暗闇から無事を守る鉱夫の安全も祈願された。常運寺の「東向観音」は白岩城主の守り本尊であり、城跡が見える東を向いている。今は学徳成就・諸病成就の仏様として信仰がある。

三柱神社の境内。

本殿横には立派な舞台が残っている。昔、八木城下から神官が移り住んだと伝えられ、屋敷跡もある。

石間歩坑

天正年間に開かれた最初の石間歩坑(構内は立ち入り禁止)は、中瀬鉱山で最も古く主要な坑道である。坑口には山神さんが祀られている。中瀬鉱山の自然金は、アメリカのスミソニアン博物館にも展示されている。