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養蚕の里を歩く<養父市大屋町大杉>(Vol.62/2007年4月発行)

土の粗壁、石垣、水路に川いと…
独特のフォルムが美しい越屋根の養蚕住宅
なんだかノスタルジックな気分になりました

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養蚕の里を歩く<養父市大屋町大杉>

 大屋根の上に乗った換気のための小屋根や急勾配の桑畑など、農村独特の素朴な佇まいが広がる養父市の大杉地区。ここの特徴は何と言っても、全国的にも珍しい中3階建ての養蚕農家が集団で残っていること。平成13年には兵庫県の景観形成地区に指定されている。
 集合場所となった「木彫展示館」を起点に探険スタート。ガイド役の島垣さんが最初に案内したのは、意外にも集落とは反対方向の大杉橋下を流れる大屋川であった。
 岸壁には「木工沈床」の松の丸太組みが顔を出していた。「木工沈床」とは、丸太を形状に組み上げて石を積み上げた、護岸工事の伝統的工法のこと。川の水で土手が削り取られるのを防ぐには、この方法が最も効果的だという。見落としそうな場所にも、何十年もの間、川の氾濫を防いできた土木遺産が眠っていることに驚かされる。
 そして、いよいよ養蚕農家が連なる集落の中へ。但馬に養蚕を広めた上垣守国の生家が隣町にあったこともあり、この周辺一帯は、古くから養蚕が盛んであった。
 この地方特有の中3階建て住宅は、少しでもたくさんの蚕を飼うために考え出された住宅様式。屋根であった部分に3階を継ぎ足して、養蚕の作業場とした。壁から突き出た梁は、2階建てであったことを証明するもの。かつては、この梁が屋根を支えていたのだ。
 屋根の上にちょこんと乗っている越屋根は、温度調節のための換気口。地元では「抜気」と呼ばれているそうだ。
 養蚕住宅の中は、蚕のための居住スペース。床はすの子状になっており、通気がよくしてある。
 「冬は寒くて、生活するには不便ですよ」とは、地元に住む建築士の河邊さん。最盛期には家族の寝る場所をかろうじて確保し、あとはすべて蚕の部屋だったという。
 すべてが土の粗壁といった建物も多く、中には建設当時のままと思われる古い養蚕農家も残っている。大屋川沿いの「大町」と呼ばれる田園地帯は、全体を望める場所。越屋根が連なる風景は、懐かしい気分にさせてくれる。
 氏神である二ノ宮神社は、集落を一望できる山腹に鎮座。毎年8月16日に、「大杉ざんざこ踊」が奉納されることで有名だ。太鼓を打ち鳴らしながら、参道である神社の階段を上っていく光景は壮観で、1度も欠かしたことがないといわれる伝統行事である。
 階段の途中には、谷から流れ出る奥山川の水を引き入れて、手洗い場が作られている。家の前や川沿いには、「川いと」と呼ばれる川の水を生活用水として使った洗い場が残る。こうした水路は、かつて生活と川が密接に結びついていたことを思い出させてくれる。
 今も昔のままの趣をみせる大杉地区。新築した家にも、景観を損なわないようにとの配慮から、越屋根が設けられている。伝統と文化が息づく町並みに、心地よい懐かしさがこみあげた。

中3階建て養蚕住宅

風情のある土壁に越屋根が印象的な「中3階建て養蚕住宅」。蚕の飼育面積を確保するため、3階部分が付け足された。リズム感のある窓の配置や、切り妻屋根とひさしのシンプルなラインは、ノスタルジックな佇まいを醸し出している。

木彫展示館

毎年行われている木彫フォークアートの入賞作品が常設展示されている「木彫展示館」。旧栃尾医院を改築したもので、滝が流れる裏庭は裏山が借景となり、見事な趣を見せる。

狛狼?

神社で見つけた狛犬ならぬ「狛狼?」