アーケードをくぐると、
別世界が広がる
ふれあい公設市場。
レトロで懐かしい
古き良き商店街を歩く。
JR豊岡駅前からまっすぐ東に伸びる大開通りと生田通りを繋ぐ豊岡市千代田町の「ふれあい公設市場」。南北約70メートルの木造アーケードの架かる路地には、花屋から八百屋に鮮魚店、菓子屋、総菜屋、飲食店、薬局、写真館など、個性豊かな16店舗が軒を並べている。
公設市場の歴史は古い。大正14年(1925)に起きた北但大震災によって、但馬北部は甚大な被害を受けた。豊岡市の中心街も例外ではなく、地震後に発生した火災により、市街地の約7割が焼失したという。
まちの復興には賑わいを取り戻すことが一番。震災の2年後、復興のシンボルのひとつとして、混乱の最中に安心して買い物ができる場所として、豊岡公設市場が設置された。昭和初期頃までに整備され、アーケードのある市場は当時、珍しかったそうだ。
「市街地にはこうした市場が点在していましたが、今も残っているのは公設市場だけになりました。建物の躯体はほぼ当時のままで、木造の市場としては、日本で最古級と言われています」とは、市場組合の組合長でうなぎ屋を営む小路長さん。
以来約100年に渡り、「豊岡の台所」として、市民の暮らしを支え続けてきた。現在は民間施設となっているが、向かい合う店舗の通りは現在も「市道」であり、公設の名残をとどめる生き証人として、買い物客の往来を見つめ続けている。
車の往来が激しい大開通りから市場の入り口に足を踏み入れると、そこは別世界。会話で買い物を楽しむ古き良き時代の市場がそこにあり、時が止まったかのように穏やかな日常が広がっている。アーケードは天窓になっていて、時おり差し込む日の光りが異空間を際立たせる。市場は長屋とアーケードの柱が一体となっている特殊構造で、木造の屋根組みが美しく、天井は開けていて開放感がある。
約2メートルほどの狭い通りには、店先をはみ出すように品物が並ぶ商店が軒を連ね、横に走る路地を過ぎて、南側は料理屋や飲み屋が多く、昼と夜ではまた違った顔を見せる。
「昭和30年代の高度経済成長期はそりゃすごい人やった。市場に来れば何でも揃い、盆や正月はおし合いへし合いで、入場規制をかけるほどだった」と話すのは、半世紀続く八百屋の店主、増田宣二さん。使い込まれたはかりは今も現役で、店舗の向かいには手作りの総菜が売られ、食欲を誘う。
約20年前には空き店舗が増えたこともあったが、平成16年(2004)に大規模改修を実施。昔の情緒はそのままに、全店舗に瓦屋根の庇をつけて京町家風にリニューアルし、名称も「ふれあい公設市場」に改称した。
生花店の安積彰さんは平成の大改修に尽力した一人。「それまでの暗くて陰湿なイメージを変えるため、天窓や街灯をつけて、通りも排水溝を設置して石畳にしたことでずいぶん明るくなった」と、振り返る。
最近では空き店舗をリノベーションしたお洒落なカフェやバー、蕎麦屋などがオープンし、現在は全て店舗で埋まっている。このレトロな佇まいが人気を呼び、新しい店舗の客によって、SNSで拡散。20代や高校生と言った若い世代も足を運んでいる。
令和2年(2020)には、豊岡市の地域おこし協力隊員であった岡田圭輔さんと、京都から移住してきた森恵美さんが、市場の雰囲気と人の良さに惚れ、市場の魅力を地元目線で伝えたいと共同でゲストハウスを開業。最近は海外の宿泊客も増え、「市場で日本らしさや暮らしを体験できた。また来たい」と、喜んで帰るそうだ。
実は組合長の小路さんも市場の雰囲気に魅せられた移転組。朝来市から移転するため、豊岡市内の空き店舗を探していた時に、公設市場を紹介された。ひと目見た瞬間にここでお店をしたら面白そうと思い、移転を決めたそうだ。
「他にはない特別な何かがここにはある。とにかく懐かしさが漂う雰囲気を楽しんで欲しい」と話す。
新旧の店舗が混じり合い、新たな賑わいを生み出している「ふれあい公設市場」。死語になりつつある「義理と人情」が、生きた言葉として語りかけてくる場所であった。
大開通りからふれあい公設市場の北側の入り口を望む。通りに入ると、昔懐かしいレトロな雰囲気が待っている。
市場のアーケードは天窓になっていて、思ったよりも明るい。木造の骨組みが歴史を感じさせる。
南側から見たふれあい公設市場。南側は飲食店や居酒屋、バーがあり、夜はまた違った雰囲気を見せる。取材当時は鯉のぼりが飾られていた。
平成の大改修で、各店舗に瓦屋根の庇が付き、通りには行灯風の街灯が設置された。のれんを掲げるお店も多く、京町家風の通りは何ともいえない情緒がある。
南側の橋の欄干跡。今もこの下には、農業用水、防火用水として使われている新川が流れる。今は暗きょとなっており、新川の上に建物が拡張された。「子どもの頃は建物がなく、川遊びをしていた」と、市場内で鮮魚店を営む村尾清彦さんは教えてくれた。