»一覧ページへ戻る

潮風が吹き抜ける路地<香美町香住区一日市ほか>(Vol.38/2000年7月発行)

岡見公園のふもと
2つの港に面した漁師町
風、香り、音を感じて歩く

潮風が吹き抜ける路地<香美町香住区一日市ほか>(Vol.38/2000年7月発行) マップを拡大して見る

潮風が吹き抜ける路地<香美町香住区一日市ほか>

 青い海にこんもりと突きだした岡見公園のふもと、一日市地区は、戸数約300軒、民家が密集し商店街が続く町並みの中にあり、香住漁港・東港、西港2つの港に面した漁業と深い関わりを持つ漁師町。香住の漁業の歴史は、記録に残されているものが少なく、本格的な港として整備されたのは明治からとされているが、現在では日本海屈指の大規模漁港としてその名を知られている。
 東港はイカや一本釣りの小型船が碇泊し、西港は沖合漁業に出かける大型船で賑わう。沖合では、朝鮮海峡、隠岐・能登沖などへ100tの大型船で繰り出し、近海では、イカやハマチ、ブリ、鯛の一本釣りの小型船が日帰り操業をおこなっている。夏の風物詩として有名な漁り火も、このイカ釣り漁によるもの。夕方5時頃に出港、沖合約30キロメートル付近で、1個3キロワット、15〜18個の大きな電球に、まばゆいばかりのあかりを灯し、一晩中漁をおこない、翌早朝に帰港する。
 また、干し物・練り・焼きなどの水産加工場が多いのもこの地区の特徴。加工場の扉を開けると魚の匂いがいっぱいにひろがる。白い長靴、大きなビニールのエプロン姿のおかあさんたちが、どかっと積まれた魚を手際よく捌いていく。 カレイやハタハタ、キス、イカ、カニなど、いろいろな素材が、干し物、蒲鉾や竹輪の練り物、焼き魚、調理用食材などに加工され、地元をはじめ京阪神、東京方面へと出荷されていく。それぞれ、独自の屋号と商標マークを持ち、加工場の表札に掲げられている。
 また、一日市をはじめ香住町の象徴的な存在となるのが岡見公園。海風から町並みを守るように突きだした小高い丘。黒松の林、八坂神社の鎮守の森、白い波の泡が打ち寄せる断崖絶壁、風光明媚な散策が楽しめる。春は桜、6月中旬〜8月下旬は、夕日に向かってユウスゲの花が咲く。石碑や石仏も多い。香住西国八十八ヵ所のお地蔵様、第二次世界大戦終戦前日に香住沖で撃沈された海防艦の鎮魂碑、イルカを退治した鎌足さんを祀る岩(蘇我入鹿を退治した藤原鎌足は漁場を荒らすイルカをも退治してくれたという所以から)。海辺の町ならではの、さまざまな伝説や物語を語り継いでいる。
 波の彼方から真っ直ぐに吹いてくる風。ほのかな潮の香り、路地からは、魚を蒸したり焼いたりする匂い。港では、岸壁に打ち寄せる波、碇泊している船のロープがきしむ音。五感を研ぎ澄ましてこの町を歩くと面白い。
※記事の内容は2000年7月掲載当時のものです。

トロ箱

加工場に山積みされたトロ箱。民家の軒下にも違和感なく並ぶ。

岡見公園から見下ろす東港周辺の町並み

静かな佇まいの路地

西港に並ぶ数十台のリヤカー

岡見公園から

断崖絶壁に白い波の泡が打ち寄せる。